そこには、君が
その日の帰り。
いつも通り教室で凜と2人を待つ。
いつもならもうすぐ来る頃。
そんな時、凜の携帯が鳴った。
「えっ、ちょっと!」
そう言って見せられた画面に
映し出された、"柴崎 春太さん"の文字。
「で、出ていいかなっ」
「いいよ!早く、出て」
2人してそわそわ。
大和と京也が来ることなんて、
すっかり忘れていて。
「もしもし」
電話を耳に当てた凜は、
もうすでに真っ赤っか。
それを横目に、1人幸せ気分に
浸っていると。
「あー…ちょっと待ってくださいね」
凜は私を見つめ、そう言うと。
ちょっと代わって、と
携帯を差し出してきた。
「なっ、何…」
「春太さんが代わってって」
何で私が柴崎さんと
電話することになってんの。
少し困惑しながらも、
仕方なく携帯を耳に当てる。
「もしもし…棚橋です」
『あ、ごめん急に』
聞こえた声に目を丸くした。
ねえ凜、電話の相手…
「徹、平さん…」
「え、徹平さん…?」
隣にいる凜は、
思いがけない名前が
聞こえたことに思わず声を漏らす。
私はこくりと頷いて、
意識を電話の向こうに飛ばす。
『まだ学校?』
「はい。今から帰る所で…」
『ちょっと今から時間ない?』
…何だ、これ。
私もしかして誘われてる?
「え、いや…あの、」
どうしよう。
そう凜に相談しようとした時。
「遅くなってごめん!」
教室に入ってくる大和と京也。
静かな教室に響く声。
もしかしたら電話の向こうに
聞こえてるかもしれない。
『あー、誰かと待ち合わせか』
予想通りに言われる言葉に、
焦りを隠せない。
何を否定しようとしているのか。
「てっ…ちょっと待って、」
彼の名前を呼ぼうとして、
ぐっと留まった。
呼んだ瞬間、きっと
光ってしまう2人の目。
『ごめんね、急に。また』
「ちょっと…あの!」
『凜ちゃんによろしく』
徹平さんはそう言うと、
何も言わずに電話を切った。
「えっと…、由美ちゃんから電話で」
誰から?なんて、
聞かれていないのに、
咄嗟に口から出る嘘。
2人は何を気にするでもなく、
帰るぞ教室を出て行く。
「徹平さん、何て?」
「今から時間ない?って言われた」
「本当?え、会わなくていいの?」
正直揺れた。
会いたくないわけじゃない。
だけど、会える状況じゃない。
「いいの!私は帰ります」
行こう、と凜の手を引く。
耳にまだ残る徹平さんの声を、
掻き消すように大和たちの元へ駆けた。
揺れるな、自分。
早くあの人の音が聞きたい。
やっぱり思うことは一緒だった。
夜になれば、聞こえる音に酔いしれられる。
早く、夜に。
私は笑いながら、1人
そう願った。