そこには、君が
次の日。
私の頭の中には。
何も考えが浮かばなかった。
「永森くん、遊ぼーよ!」
「みんなカラオケにいるらしいし!」
マンションの階段を昇れば、
大和の家の前に2人の女の子。
クラスメイトだろうか。
短いスカートで可愛く着飾り、
髪を巻いた大和を好きであろう女子。
「後から京也くんも来るんでしょ?」
「じゃあ2人で!ねっ?」
可愛い語尾が耳に聞こえる。
だがそんなこと、
今の私には関係ない。
「めんどくせーから、帰れって」
「えー、やだ!一緒に行っ…、」
駄々をこねる彼女たちの間を。
「ちょっと失礼」
私は割って入った。
こんな女子なんて関係ない。
耳に入ってきたのは、
女子の文句と降り始めた雨の音。
「大和」
「明香、どうし…」
「一緒にいて」
大和の目を見て、そう言うと。
邪魔。
それだけ言って、彼女たちを
乱暴に外に出すと玄関のドアを閉め。
私を中へ、優しく迎え入れてくれた。
「どした」
「何でもない」
「飯作れ、腹減った」
こんなに寒いのに、
白いTシャツ1枚にスウェット。
大和は自分のお腹を掻きながら、
ふわぁ、っとあくびをこぼした。
「京也来るの?」
「後からな。知ってたのか」
「ううん、あの子たち言ってたじゃん」
なるほど、と言いたげな顔で、
私を見つめてくる。
何でこいつはこんなに、
悩みのない顔をしてんだよ。
「あの子たちいいの?」
「なにが」
「いや、やけに熱心に誘ってたから。断っちゃって、いいのかな…って」