そこには、君が
あの音を奏でてくれる知らない人を、
裏切るようで嫌だったから。
「……んで、泣く」
「…うっさい」
大和は私の指や手のひらに触れ、
怪我をしていないことを確認すると。
「泣き止め、ぶす」
暴言を吐いた。
泣いていた。
知らない間に私の目から、
涙がボロボロこぼれ出る。
「もう…何なの」
追いつかない感情が、
私を更に煽る。
求めているものに、
手を出すことを自分が許さない。
そんなこと初めてで。
「皿もういいから」
「離して」
「置けって」
「ほんとうざい。ほっといて」
大和にだけなの。
こんなに気持ちを言えるのは。
だからいつも、私は大和を
怒らせるし、傷付ける。
「明香」
だけど大和は。
「落ち着け」
いつも向き合ってくれるし。
私の傍で、さりげなく守ってくれる。
そんな大和が、本当に大好きで。
「大、和…」
大和は私の手から、
静かに濡れたお皿とスポンジを取ると。
優しく私の手を拭いて、自分の方へ引いた。
大和は私に背を向け、歩き出すと、
見慣れた一室へ。
キングサイズのベッドと、
部屋の真ん中に小さなテーブル。
棚には大和の好きなマンガと、
私の好きなCDたち。
カーテンは真っ暗で、
部屋の中はいつでも夜中。
「ばか明香」
「何よ」
「寝ろ」
大和は優しく手を引いて、
自分の隣に私を入り込ませる。
自分が奥側に詰め、
私が落ちないように腕枕。