そこには、君が
徹平さんが寝込んでるって、
そんなこと。
「土曜日、雨にあたってたって」
「雨…?」
記憶を巡らせてみれば、
確かに土曜日は雨が降っていた。
まさかその中を、待っていたというのか。
「明香が行かないって決めたんだし、私もそれでいいと思うの」
凛は続けて。
「だけど、徹平さんも、傘がなくて濡れたわけじゃないと思う」
そう言った。
私は何も考えられなかった。
行かなかったことで、
徹平さんを辛い目に合わせている。
それだけは事実だ。
「それだけは知らせておこうと思って」
「別に私は…」
「それだけだから」
じゃ、と凛は教室に戻った。
私はその背中をじっと見つめ、
その場に立ち尽くした。
逃げたんだ。
私、彼からも自分からも。
逃げちゃったんだ。
「待って!」
行かなきゃ。
そう判断するまで時間は
かからなかった。
「先生に何か言われたら、腹痛で帰ったって言っといて!」
私はさっきいた場所へ駆けた。
鞄を取ったら、まずは
家に帰ろう。
それから必要な物を持って。
私は無我夢中で走った。
何も苦しいことはない。
走りながら携帯を開くと、
柴崎さんから聞いたであろう、
徹平さんの住所を記憶した。
「粉と…ミルク…と、」
家を出る時。
もう一度、住所を記憶。
「出よっ…、わっ!」
「何やっちゃってんの?」
そこに立っていたのは。
なぜか京也。
そして階段を上がってくる、
制服を着ていない大和。
「京……也、何してんの」
「こっちのセリフだけど、明香」
静かな不満が私に注がれている。
もちろん知らないふりを
通す私だけど。
「学校抜けたらしいなお前」
やっていることは、
なぜかバレているらしい。