そこには、君が
「なぜ…ご存じで?」
「俺の目の前、走り去ってりゃバレるでしょ」
まじかよ。
自分の間抜けさに、
言葉を失った。
先生を撒けても、
2人は撒けなかったのね。
「どこ行くの?」
「いや別にどこも行かないけど」
「怪しすぎるでしょ。超早口」
「いやいやいやいや、何もないから、うん」
これ以上聞かれるとまずい。
今以上に大事になる。
非常にめんどくさい。
「とりあえず2人とも、帰って?ね?」
「明香、お前何隠してんだよ」
2人とも、勘が鋭くて。
今から私が何かしようと
していることを見逃してくれない。
「何もない。2人とも今日は本当に見逃して」
「そういう問題じゃねーだろ」
「そういう問題なの!!」
私の言っていることは、
おかしいのは重々承知。
だけどもうそれどころじゃない。
あんなに躊躇ったけど、
今は風邪ひきさんの所へ
行きたくて仕方ない。
「じゃ、じゃあ…」
私は制止を振り切り、
階段を下りた。
息が切れて苦しくなる。
そんなのお構いなしに、
私は走り続けた。
「ここか…」
家から10分。
意外とというか、
本当に近い場所にいたんだと
改めて実感。
急ぎながらもちっぽけな頭で、
風邪の時に欲しいものを買った。
果物にゼリー、飲料水。
風邪薬も一応念のため。
「…迷惑じゃ、ないかな」
突然家に押し寄せてきて、
看病しますなんて変だよね。
でもここまで来たし。
なんて理由つけて。
私はインターホンに手をかけた。
今更だけど。
徹平さんの家って、
オートロックなんだ。
建物自体もすごい綺麗だし、
もしかしてお金持ちのお坊ちゃん?
『…はい』
「あっ…えと、」
突然イヤホンから声がして、
思わず声がうわずってしまった。
「勝手に来ちゃいました…、棚橋です」
『棚橋…って、明香ちゃん?』
驚いた徹平さんの声は、
少し掠れている。
これ以上、話させたくないな。