そこには、君が
「家まで来て…迷惑、ですよね」
『迷惑じゃない。何か用?』
違和感だった。
あんなに優しかった徹平さんに、
ただ「何か用?」と言われただけ。
それだけなのに、ひどく後悔した。
あの時、私が行けば、
風邪を引くこともなかったのに。
「風邪を引いたって聞いて…それで、お見舞いを…」
たじたじな私の声を。
向こうでどう聞いてるんだろう。
小さく咳が聞こえて。
『ごめん…帰って』
ぷつん、と。
切れる音がした。
何も聞こえなくなった。
徹平さんの声が耳に届かない。
「嘘…」
想定してなかった出来事に、
立ち尽くした。
勝手に中まで入ることを想像してた。
私はばかだ。自業自得。
「帰ろ…」
エントランスを出て、
マンションに背を向けた時。
「ごめん!」
突然肩が後ろに引かれ、
前進することが許されなかった。
驚いて振り向くと、
そこには真っ赤な顔をした徹平さん。
「な、んで…」
「あー、頭痛い」
「さっき帰れって…」
「寒すぎ。外、無理」
噛み合わない会話。
何を言っても返事は来ない。
「私…帰るんで」
「帰んな」
徹平さんはそう言うと。
私の手を強引に引いて、
再びエントランスの中に入った。
私は心の中で必死に抵抗しつつ、
引かれていることを受け入れていて。
さっき帰れと言われたことなんて、
もう頭のどこにもない。
今考えてるのは、
目の前のこの人のことだけ。
「上がって」
「お邪魔します」
本当なら私はこの場にいないはず。
何で家の中に招かれているんだ。