そこには、君が






「ごめん、散らかってて」




すぐ片づける、と。


徹平さんは辛い体を無理やり


動かすようにして、


脱いだ服をまとめた。


全然散らかってない。


むしろ綺麗すぎるくらい。





「このままでいいですよ?」





「いつもはもう少しましだから」




風邪のせいか、走ったせいか。


顔が真っ赤に染まっている。


もっと言えば、鼻声と枯れた声。





「徹平さん…」





ふいに。


近付きたくなった。


必死に片づけている徹平さんの手を、


そっと、握って服を離させて。





「風邪引いてんだから。寝てればいいんです」





少し頬を膨らませて言うと、


徹平さんは少し笑って。





「怒んな」





なんて言いながら、


言われた通りに部屋を出て、


寝室らしき部屋へ向かった。


カーテンが海の底をイメージさせるような、


そんな綺麗な青色。


ふかふかそうなベッドに、


腰を下ろす徹平さん。




「さっき」




「ん?」





小さい子どもにするように、


私は布団を彼の首まで持っていった。





「帰れとか言ってごめん」





「そんな…謝んないでください」





申し訳なさそうな顔で、


私を見つめる徹平さんの顔が。


まるで言い訳をしたい子どもの


ようで、可愛く見えた。






「うつしたくなかったから」





「うつす?」





目をつぶりながら、彼は。






「風邪」






優しい一言を言って、


眠りについた。


どうしてこの人は、


こんなに優しいんだろう。





「あーもう、」





手を伸ばし、彼の額へ。


とても熱い温度を感じ取りながら。





「ごめんね」





そう呟いた。


だってそうだもん。


私があの日、待ち合わせに


行っていれば。


勝手なことをしなければ、


こんなことにはならなかったのに。





「あ、ココア…」





いつかの会話を思い出して。


家から持ってきた特製ココアセット。


風邪を引いてる徹平さんに


作ってあげたくて。





「よいしょ…っと、」





立ち上がろうとした時。


急に手を動かし、


ぎゅっと私の手を握る徹平さん。






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