そこには、君が
「じゃあ私、帰りますね」
私は待ち合わせに行かなかった。
「ほんとありがと」
私の家にもし友だちが来たら。
また来てね、と言うだろう。
「早く風邪、治して下さい」
だけど私は、
待ち合わせに行かなかったから。
「うん、ありがとう」
徹平さんは、全てを察して
いるように、何も言わず。
ただ感謝をするだけ。
それなのに、私は、
卑怯なばかだから。
「じゃあ、また」
また会いたくなった。
あまりにもこの人といるのが、
心地よくて。
また会える。
私はそんなことを思った。
「明香ちゃん」
けれど事態は思ったほど、
甘くはいかない。
「もう俺、現れないから」
「え、」
切なそうに、苦しそうに。
徹平さんはそう言った。
「徹平さん…」
「罪悪感持たせてごめんな」
だんだん手に、
力が入らなくなる。
私があの日に行かなくて、
悪いと思った気持ちを、
知らないうちに知られていた。
「違う…のに、」
なんて言ってみても、
意味のないこと、分かってた。
だってそうなんだもん。
私のしたことで、徹平さんが
熱を出してしまった。
だから私はここにいる。
「来てくれてありがと、まじ助かった」
「お大事に、してください」
笑ってみせた。
そんな私を追い出すように、
徹平さんは私の手を取って、
玄関の外へ。
「気をつけて帰れ」
怪我をした鳥を匿って、
優しく空へ返すように。
ゆっくり大切そうに、
掴んだ私の手を離す。
掴み直したい、と、
いくらか思った。
「さようなら」
振り返らなかった。
だってもう後ろにはいない。
玄関の閉まる音が聞こえたから。
「さようなら、なんだ」
歩きながら呟いて。
1歩歩くたびに、
噛み締めていく。
私はもう、
会えないんだ。
そうなることを私は、
分かっていたはずなのに。
少なくともそうなったのは、
自分のせいだということに。
気付いた時にはもう遅かった。