そこには、君が
「じゃあまた明日ね」
「あ、うん!またね…」
帰り際。
いつもと違う、凛の様子。
「もー、凛。朝からどしたの」
「へ?なにが!」
明らかにおかしい凛は、
挙動不審とも取れる動きを見せる。
おもわず笑っちゃう私だけど、
やっぱり明らか変だ。
「だって今日の凛…」
おかしいじゃん。
そう言う前に。
「今日夜、家にいるよね?」
なんて聞いて来た。
いるって言ってんじゃん。
楽しみな日なんだから。
「いる、けど」
「うん、なら!うん、じゃあね!」
何なんだ、一体。
訳がわからないまま、
とりあえず帰る途中にある
スーパーを目指した。
途中。
カバンの中の携帯が、
音を小さく鳴らした。
「なに?」
『今どこ?』
大和だった。
「どこって、スーパーだけど」
『買い物すんな』
「じゃあ何食べろって言うのよ」
この不器用発言男は、
用件しか伝えない。
『ばばあが飯一緒にって、』
そこで、パコンと音が聞こえ。
誰だよ、ばばあって!
と声がした。
『とりあえずそういうことだから』
ぷつりと電話を切ると、
無機質な音だけが聞こえる。
私はスーパーに向かう足を、
家へと方向転換し、
少し足を早めた。
「ばばあ意味わかんねー」
大和の家に着くと同時に。
バタバタと聞こえる足音。
リビングから現れた大和のママは、
いつも以上にお洒落している。
どこか行くのかと尋ねると、
今からパパとデートだと言った。
「いいじゃん、別に」
「行くならいいけど、飯作れって話だろ」
「もーうるさいな、親孝行しなさいよ」
一緒にご飯を食べよう。
というのは、大和と一緒に、
作って食べてという意味。
参りました、お母様。
「どーやって切んだよ、これ」
「うるさいな、ほんとに。あっち行っててよ」
文句ばかり言う大和に、
文句ばかり言う私。
結局ほぼ私は1人で、
作ったご飯を2人で食べる。
「美味しい?」
「不味い」
「ふざけんな」
時計をちらっと見る。
もうすぐ21時。
いつもの時間まで、
あと30分。
そろそろ片付けするかな。
「どこいくの?」
「トイレ」
「ふーん」
「何だよ、お前も行くか?」
「行かないわ、ばーか」
大和を横目に、
私は2人ぶんの食器を
台所へ持って行く。
スポンジに洗剤をつけ、
あと1つお茶碗をゆすいでいた時。
「音が…、」
微かに、わずかに、
音が聞こえた。
「嘘。まだ21時前なのに」
慌ててゆすぎ、
食器置きに置く。
大和もいないリビングで、
静かに耳をすませる。
聞こえてきた音。