そこには、君が





窓も閉めないまま、


電気をつける。


とりあえずどんな怪我かも


分からないから、


手当たり次第の手当てセットを


かき集める。


切り傷なのか、


それとも冷やした方が良いのか。


こんな時のために、


救護法習うべきだった!


なんて考えながら、


とりあえず玄関を飛び出した。


まずは怪我の確認。


それから手当て。


水がいるなら水道へ。


立てそうになければ病院に電話。


そんなことを考える傍ら。


会って引かれる可能性は大。


逃げられるかもしれない。


もう来なくなるかもしれない。


そんなことも考えた。


私は公園の入り口に着くと同時に。


息を切らして、肩を揺らすが、


足がぴくりとも動かなくなった。


怖い。


会ったら終わり。


そんなことが、よぎって。


やっぱり帰ろう。


そんなことを思った。


刹那。





「あーもう、痛い」





その人の声が聞こえた。


そのおかげで動いた足。


もしこの人を助けずに、


立ち去ることになれば。


きっと私は後悔する。


そう浮かんだ私は、


ぎゅっと目を瞑り、


公園の中に入って。





「だ、大丈夫ですか…っ!」





そう声をかけた。


目の前で転けている人は、


私に背を向け苦しんでいる。


どうしよう。






「あ、あの!怪我ですか?」




「…痛っ、あー無理」




「た、たっ、立てませんか?」





勇気を振り絞って、


声をかけるも、それへの


返答は全くない。


私は目の前の人に、


どうしたらいいかわからず、


手当てセットのガーゼを


握り締めて手に汗を握った。






「あ、の!救急車必要でしたら…」




呼んでください。


そう言いながら、携帯を出し、


119番を押す。


よし、かける準備はバッチリだ。






「あの…?」





さっきまで、痛いと、


言っていたのに、


急に返事もしなくなった。






「お、おにーさん…あの、え…嘘、」





意識がなくなった。


だっておかしいじゃん。


返事もない。


動かない。


どう見たって…


意識不明の重体。






「もっ、もしもし!救急車1台お願いします!」





どうやって救護したらいいの。


人工呼吸?頭を持つの?


足は?手は?





「はい、年齢は分かんないんですけど…」




「公園の中で、倒れてて…」





病院の人が対応してくれる中、


私は必死に答えられることを返答する。


その時。





「うわっ、」





突然倒れていた人が立ち上がり、


私の携帯を取り上げた。


そして、耳に当てると。






「何でもないです、切ります」





そう言って、電話を切ると。


私の目の前で大笑いして、


お腹を押さえ始めた。






「え、倒れ、て…、何で」





パニックになるのも仕方ない。


だって私の中では、


意識のない人。






「ごめんごめん…くくっ、」





笑っているその人を見て、


私は何でもなく、


安堵した。


拍子抜けをした私の目に、


涙が浮かんだ。


私に音をくれるこの人が、


生きていてよかった。


そう思ったから。





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