そこには、君が






そしてその人は、


お腹を抱えて笑いながら、


静かに顔を上げた。


反射で顔を下げる。


やばい。


終わってしまう。


だってもう、


おしまい…。







「俺、生きてるよ」






そう言われて、


ハッとなった。


どこかで、


この声。






「悪ふざけが過ぎた。ごめん」





聞いた気がする。


どこだろ。誰だ。


確か。


…嘘だ。嘘だよ。






「顔、上げてよ」




「…嫌です、」





だって。


そんなこと、


あるわけないと思ってた。


今、顔を上げれば、


全部が現実になる。






「嘘だ…」





もう変えられない。


これは本当にあったこと。


だってこの声、


私が会いたかった人。






「明香ちゃん」





名前を呼ばれ、


思わず顔を上げると、


そこには見慣れた顔がある。


私はもう、


目を逸らすことが


出来なかった。






「徹平、さんだ…」





「なに、泣いてんの」





生きてることにホッとし過ぎて、


涙が止まらないまま、


彼を見たものだから。


変に心配された。


涙で視界がぼやける中、


必死に彼を探す。






「初めまして」




「初め…まして、」






そう。


まさに言うはずだった、


初めましての挨拶。







「ごめん、黙ってた」





「何で…」






緊張が解けて、


腰が抜けた。


へなへなと座り込む私を、


優しく見つめる徹平さん。






< 61 / 325 >

この作品をシェア

pagetop