そこには、君が






地面を蹴る音が嫌に聞こえる。


それと同時に息も荒くなる。






「もー最悪っ…、」






携帯じゃ不安だからと。


慣れないアナログ時計を


目覚ましにセットしたのが運の尽き。


電池の入れ忘れで音が鳴らず、


結局目が覚めたのは予定の1時間後。







「徹平さん!!…っ」






駅前のバス停にたどり着くと、


もう足が動かず膝に手を付く始末。






「待たせてごめんなさい、あのっ…」






息を切らしながら、


言い訳を考える。


上手く口が回らない私。






「本当にあの、」






何も言わない徹平さんは。


無言のまま歩き出す。


やばい。


怒らせた。


私は後ろを黙って着いて行くも、


居心地が良くない。


あーもう終わってしまった。


嫌われた。


だってほらもう。


徹平さん立ち止まっちゃったし。


怒られ……、






「…っ、くくっ…」





「…え?」





「あっはははは…」





急にお腹を押さえて、


笑いだす彼。


そのまま振り向いて、


私を見つめる。






「あーごめん、無理」





「え?…え、なに」





「明香ちゃん可愛すぎて無理」






徹平さんは私の頭をぽんとして、


怒ってないからと笑った。





「怒ってるように見せようとしたけど、耐えられねーわ」





「も~、本当にごめんなさいぃ」





いいよなんて優しく言うものだから、


ほっと安心して足に力が入らない。


本当にこの人には敵わないな。






「どこ行くんですか?」





「教えない」





「え、そこは教えてくださいよ!」





「遅れてきたくせに威張んな」




「いっ、威張ってなんかないです!」






こうやって。


街中をじゃれながら歩く。


隣にいてほしかった人が、


現にここにいる。






< 69 / 325 >

この作品をシェア

pagetop