そこには、君が
『どこ』
自分が尋ねているのに、
疑問形にしないあたり、
よほどのお怒りのようで。
「ちょっと外」
私も私で怒っていることを
分かってるんだから。
もっと可愛く言えばいいのに。
「なに怒ってんの」
『は?怒ってねーだろ』
明らか怒ってるのに、
それを言われると否定する。
本当に分からない男。
「わたし今忙しいから」
『何時に帰る』
「言わない。なんで?」
『飯ない。夜1人だから』
こんな連絡。
あえて電話じゃないとだめ?
って思う。
「ママいないの?」
『静香ん家。親父は出張』
静香ちゃんは大和の姉。
けれど彼の口から、
お姉ちゃん、なんて、
聞いたことがない。
「何時になるか分かんない」
いつもならそれで、
通じるはずなのに。
『とりあえず飯ない』
ぷつん。
そこで切れる通話。
なんの解決もせず、
会話が終了。
私は携帯をおもむろに、
ポケットに戻すと、
飲み物を手に徹平さんの元へ
駆けて戻った。
「お待たせしました」
戻ってみると、
徹平さんは寝息を立てていて。
私は邪魔しないように、
そっと隣に腰を下ろす。
もうその頃にはすっかり
さっきの電話のことは忘れ、
目の前の彼に意識が向く。
自分が苦手であることを隠して、
どうやったら付き合えるのか。
私だったら絶対、
途中で根をあげちゃう。
「あー、1日早かったな」
「あっという間でしたね」
閉園まであと数時間。
辺りも少し薄暗くなり、
私たちは帰路につくことに。
帰りながら今日のことを話す。
その時間がもう何より幸せで。
たった1日なのに、
何十日も一緒にいるかのような、
錯覚をしてしまう。
それくらい、今日という日に
没頭していた。