そこには、君が





駅前に着いた時。


ふと思い出してしまった、


昼間の電話。


それは、大和が好きなお店を


通り過ぎた時で。






「どうする?夜」




「あ、夜……」






食べます。


一緒に食べてください。


パスタが食べたいです。


ハンバーグ好きです。






「ごめんなさい、あの…」






そう言いたかったのに。






「おばあちゃんが…帰ってきてって…」






言えなくなった。


おまけに嘘をついた。


おばあちゃんじゃないのに。


大和なのに。






「だったら帰んなきゃな」




「はい。本当今日は楽しかったです」






しんみりする空気。


もうばいばいか、なんて。


切り出した私がそう思うのは、


卑怯だって分かってる。






「俺、ほんとはさ」





徹平さんは私の手を引いて、


駅の端に連れて行く。


少し明かりがなくなった場所で。






「絶叫系、大好きで」





「…ん?」





「ごめんな」






後ろから何かを取り出して、


私に謝りながら手渡す。


訳も分からず、手に取ると、


紙袋には今日行った場所の名が


しっかりと刻まれていた。






「え…、でもあんなに気分悪そうに」





「まじでごめん。騙すつもりなくて」





申し訳なさそうにする徹平さんを


横目に、開けてみてと言われ、


そのまま紙袋を開ける。


中にはテーマパークの


シャープペンシル。


特に可愛くなんてない、


ただのシンプルな筆記具。






「これ…私に?」




「あー最悪。違うの取ったつもりで」





話を聞けば、


私が飲み物を買いに行っている


間に、売店に走ってくれたらしく。


急いだ結果、買おうとした物では


ないものを手にしたが、


選び直す時間がなくて、


仕方なく購入したのだとか。






「か、可愛くない…」




「だよな。そうだよな。いや、もうごめん」





必死に謝る徹平さんが、


何者よりも可愛くて。


チャームもない、


可愛くもない、


そんな筆記具でも。






「一生大切にしますから」






死ぬまで使おうと思った。


ずっと待ってよう、って。


そう思った。





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