そこには、君が





「大和、いる〜?」




不用心に鍵が開いている家に、


私は返事も聞かずそのまま入る。


ここ、と声が聞こえたのは、


リビングではなく自室から。






「ご飯買ってきたけど」





「そっちで食う」






どうやら寝ていたらしい。


声がもう眠気に襲われている。


放って帰ってやる。


なんて思いながらも、


足は勝手に大和の部屋へ。






「大和、寝てんの?」




「んー」




「ねー起きて。冷める」




「んーうるせー」






あ〜、そうですか。


せっかく買ってきてあげたのに。


しかも嘘までついて来たのに。


そんな扱いですか。





「何だよばーか」





普段じゃ言わない暴言を、


寝ていることをいいことに


思い切り言ってやった。


開いた口が止まらない。





「せっかく温かいのと思って急いだのに」




「寝てんなら最初から言ってよね」




「大和のばー、っわ、」






暴言は最後まで言い切れず、


知らない間に伸びてきた手に気付かず、


勢い余ってベッドにねじ伏せられた。


プロレス技なんじゃないかってくらい、


早いスピードで私を捕えると。






「好き勝手言い過ぎ」






なんて言いながら、


自分の脇に私を収めた。


寝ていたからか、


いつも以上に温かいベッド。


何度も知ってる、


大和の温もり。






「おかえり」




「うん、ただいま。今日何してたの?」




「京也に連行されてた」






抱きしめられてる形で、


ずっと話しながら目を瞑る。


ここはやっぱり、


居心地がいい。






「ご飯、食べて」





「ん、」





「ん、じゃなくて。早く」





「あと5分」





「無ー理ー。寝るでしょ」






他愛ないやりとり。


発展のない会話。


2人で寝てたって、


どうってことない。






「寝ない」




「寝ーるってば、ばか」




「お前言いたい放題か?え?」





大和はだんだん意識を取り戻すと、


笑いながら私の髪をくしゃくしゃにした。


逃げようにも逃げられず、


されるがままにされる。


腹が立つので、横腹を軽く


殴ってやった。






「明香は?」




「ん?なに?」




「今日何してた?」





言葉に詰まる。


答えるべき答えは。


まだ違う。






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