そこには、君が
「だけど、永森くん」
「名前出さないで」
聞きたくない名前に、
思わず喉を詰まらせそうになる。
大和のことは、
今は考えたくもない。
「何なんだろうね、あの子」
「知らない。どうでもいい」
そう。
名前も知らない。
顔も見たことない。
そんな女の子なんて、
正直どうでもいい。
「…ね、噂をすればじゃない?」
パックのジュースにストローを
刺したとこで手が止まる。
廊下に現れた、
あの女の子、と。
手を引く大和。
「なに、あの光景…」
教室の後方に座っている私たちから、
嫌でも角度的に見えてしまっている。
大和と女の子の光景。
女の子を廊下で待たせ、
教室から戻ってきた大和の手には、
絆創膏が握られていて。
擦りむいたのであろう、膝に、
優しく大和が貼ってあげている。
あの、大和が。
「永森くん、優しいじゃん」
「どこが」
すると、見つめすぎたのか、
振り返った大和と目が合ってしまった。
最悪と思った時には、遅かった。
「明香、ちょっと来い」
少し遠慮気味に話しかけてくる。
そんな大和を完全に無視。
「明香、来いって」
「永森くん、また先生来ちゃうから」
「凛、お前も来い」
いつになく必死な姿に、
何事かと思う。
だけど、
行きたい欲が唆られない。
「や、大和くん…っ、」
控えめに、ひっそり。
大和の後ろへ近付いてくると。
裾をぎゅっと握りしめ、
顔を俯かせるその子。
なんだ、もう大和くんとか、
呼んじゃう仲なんだ。