そこには、君が
「明香はちゃんと自分のすること、分かってると思う」
「私の…すること…?」
すぐそこの入り口まで並んで手を繋ぐ。
空いたもう片方の手で空を仰いでいる。
今日の空には三日月が。
優しく笑ってくれているような、
そんなお天気。
「彼は、明香のこと本当に大切そうだった」
「でも、だったら…」
「その女の子と一緒にいるのも、理由なくいるわけないと思うけど」
理由も、なく…か。
確かに聞かないと分かんない。
「話を聞いた上で、怒ったら?」
「もし付き合うとか言われたら…」
大和が他の子を大切にする。
応援しないといけないのは
分かってるけど。
それでも気分は良くない。
「じゃあもし、彼がその子と付き合うって言ったら」
徹平さんは私の手を握り、
自分の顔の前まで持ち上げると。
「俺がその分、明香のこと大事にする」
真剣な顔をするもんだから、
胸の高鳴りが一気に増す。
こんなに大事にされているのに、
まだ大事にされるというのか。
私は本当に欲張りだ。
「あははっ…、もう、」
「あ、そこ笑う?」
あまりにも真剣なこの人に、
思わずにやけを通り越して
笑ってしまった。
可愛すぎるんだ。
もう何もかもが愛しい。
「明日ちゃんと話聞いてくる」
「うん、絶対それがいい」
いつも私は誰かに、
背中を押されてばかりいる。
「じゃ、俺バイトあるから行く」
「せめてココア…」
せっかく来てもらったから、
ココアくらい出そうと
思ってたのに。
「今度家行かせて?」
「分かりました」
この短い距離で、
家に着いたら連絡しろと言う。
分かった、と笑いながら言ったら、
真剣だからと怒られた。
こんなにも素敵な人に、
背中を押されたんだ。
仕方ない。
明日話聞いてやるか。
"無事に着きました"
大和だって、
理由もなく私との予定を
忘れていたわけではないと思う。
"俺、もう会いたいのですが。"
ハルナさんだって、
何か理由があるのかもしれない。
もし大和のことが好きだと言ったら、
ちゃんと応援してあげよう。
"私も会いたいので、今から行きます"
何であんなに怒ってたんだろう。
話聞いてあげればよかった。
今更後悔なんてしても、
遅いんだけど。
"やっぱり会いたくなくなったので、今日は家から出ないで下さい。
やっぱり本当は会いたいので、
また明日会いに行きます。
バイト行ってくる。"
「ふっ…、もう何なの」
可愛すぎるメールのやり取りに
胸が踊りながら、ベッドに潜る。
明日は素直な私になれますように。
ごめんなさいって言えますように。
仲直り出来たって、
報告出来ますように。
そう心の中で唱えながら、
頭の中は徹平さんでいっぱいな私だった。