そこには、君が
「私と!友だちになってください!」
大きな声で。
まっすぐ目を見て。
まるで大和に魔法でも
かけられたように。
さっきとは別人になっている。
「棚橋さんと、河村さんは覚えてないかもしれませんが…」
榛名さんの言う言葉に、
蘇ってくる記憶。
「6月の雨の日、ここで2人に助けてもらったんです。ずぶ濡れになりながら、押し倒された私の手を引き、目の前にいた人たちに怒ってくれた」
そうだ。
どこかで見たことあると思った。
6月の梅雨真っ只中の日。
今日と同じように通った廊下から、
数人の女子に囲まれている人を
見かけて。それで。
「あ、あったねそういえば」
「うん、覚えてる。助けたよね、女の子」
手を差し伸べ、
囲んでいた女子から逃げ、
屋根の下へ駆け込んで。
「大丈夫?」と声をかけた。
そしたらその子は、
泣きながら走って行ったんだっけ。
「私はそれが嬉しくて。その時からずっと、2人に憧れてました」
榛名さんは大胆にも、
両手を差し出して。
私たちに深々と頭を下げると。
「お友だちになってください!」
そう言った。
凛と目があった。
多分同じことを考えてる。
「榛名さん」
友だちって、
お願いしてなるものじゃない。
自然と惹かれあって、
気付けば傍にいるもの。
「断る理由ないじゃん?」
「今日一緒に帰ろうよ!」
私と凛は、
同時にその手を取った。
この子は絶対、
人の痛みが分かる人。
そんな人を、
大事にしたいと思った。