そこには、君が
放課後。
教室で榛名さんを待つ私と凛。
そこへやってきた。
「明香」
「かーえろ」
大和と京也。
くだらない嫉妬で、
ぎくしゃくした私たち。
だけど、約束を忘れていたことを
許したわけじゃない。
「おっ、遅くなりました…!」
そこへ駆けてきた榛名さんは、
大和と京也に驚いて口が開きっぱなし。
「何で2人と帰んなきゃいけないの」
私は榛名さんの元へ近寄ると。
凛と2人で彼女を挟み。
「今日は3人で帰りますので」
険悪なムードの中、
なぜか幸せそうに微笑む
榛名さんを横目に。
玄関へと向かった。
何をするわけでもなく、
ただずっと歩きながら、
榛名さんの話を聞いた。
私たちに何度も話しかけようと
してくれていたこと。
話し声が聞こえるたびに、
自分も心躍らせていたこと。
4人でいる光景が、
羨ましくて仕方がなかったこと。
「そうだったんだ」
「全然わかんなかったね」
初めに見た時は、
泣きそうで辛そうだったのに。
今はどうしようもなく、
嬉しそうな顔を見せてくれる。
「じゃあ私はここで」
凛は楽しかったと笑顔を見せる。
榛名さんは、恥ずかしそうな、
寂しそうな表情で。
「あ!連絡先交換しない?」
「それ私も言おうと思った!」
そう言うと、
榛名さんは驚いたように
携帯を取り出した。
「い、いいの…?」
「何言ってんの!」
「当たり前でしょ!」
私たちの携帯に榛名さんが増えた。
榛名さんの携帯に私たちが増えた。
「凛でいいから!ね?」
「あ、じゃあ私も!明香がいい!」
慣れない様子で名前を口にし、
自分も名前でとはにかんだ。
榛名さんを、陽と呼んだ時、
彼女の目がうっすら潤んだ気がした。
「陽、甘いもの好き?」
「う、うん。よく食べるよ」
「じゃあ今度いいお店教えてあげるね」
陽は嬉しそうに笑って、
携帯を握りしめる。
まるでプレゼントを
もらった子どもみたいに。
「うわ」
そこへ鳴り響いた、私の携帯。
ディスプレイには、暴君…大和。
ちょっとごめんね。
陽にそう断って、
携帯を耳に持っていく。