そこには、君が





「笑ってるよね、あの2人」





「うん。楽しげだよね」






腕を組まれている様子だけど、


振り払う様子も全くない。


おまけに楽しそうに、


笑って会話しながら歩を進める。


これが今日聞いた、


大学生にとって当たり前の


ことなのだろうか。






「なんなの、あれ…」






家に着いて、荷物を置いて。


お風呂に入って、ご飯を済ませ。


それでもさっきの光景が、


頭から離れない。


徹平さんが、


まさか女の人と、


歩いているなんて。


その時。


机の上でバイブ音が鳴った。






「徹平さんだ…」






声が漏れちゃうほど。


こんなにも、好きなのに。


とてつもなく、会いたいのに。






「もしもし」





『明香ちゃん、起きてた?』





聞きたかった声が、


側で聞こえる。







「起きてました」






心なしか、


冷たくなった返事。


いつもなら、


何してるんですか?


って、聞くところなのに。






『バイト早めに終わったから』






私に甘い囁きが。


容赦なく降り注ぐ。






『会いに行っていい?』






一瞬でも、時間が空けば、


いつでも会いに来てくれる


この人が。






「今日は、無理みたいです」






誰かの隣で笑っていた。


それを考えただけで、


居ても立っても居られない。







「おやすみなさい」






勝手に通話を途絶える。


こんなこと初めてだから。






「やっちゃった…」






こっちから喧嘩をふっかけて、


なぜか後悔してしまっている。


なんで後悔なんか!


だって楽しそうに歩いてる


徹平さんが悪いんじゃん。


そう思おうと何回も、


髪をくしゃくしゃにして。


他には自然と携帯電話が


握られている。


もう一度、声が聞きたい。


なんてことをしたんだ私は。


思い切り後悔しながら、


ベッドに潜り込む。


目を閉じて、音楽をかける。


携帯が選曲したのは、


別れの曲だった。



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