深夜1時のラブレター
「このままずっと目を覚まさない可能性は?」
「あります。もし起きたとしても、記憶を失っている可能性もゼロではない」
「じゃぁ、私のことが分からないかもしれないんですね」
「そうですね、でも」
「でも?」
すかさず聞き返した私に、大塚先生はにっこりと微笑んで、場所を変えましょうか?と、窓の外を指差した。
ここの病院は旧館と本館の間にカフェテリアがあり、そこでお昼ご飯を食べる人も少なくない。
ガラス張りのそこは陽がよく当たり、温かかった。
「ほまれくんは、ずっと亜依さんのファンだったんです」
「先生も知ってたんですか?」
「知ってるも何も、僕が教えたんです。検査入院中があまりに辛そうだったから、気を紛らわす為にラジオを聴いたらどうかなって。そしたら毎日聴くようになって、中でも亜依さんの声が1番好きだと言ってました」
「……そうだったんだ」
「ほまれくんの頭の中にある腫瘍自体は悪いものじゃなかったけど、出来た場所が悪かった。そのため一生懸命やってた部活も辞めることになってしまって、気持ちが塞ぎ込んでいた時に、亜依さんの存在を知ったんです」
彼にとって、どれほど支えになったか。
毎週、オンエアを楽しみして、録音までしていたんですよ。
先生は思い出したかのように笑う。
僕よりも熱心なファンだった、とも付け加えた。
「しかし、手術するのを1ケ月待ってほしいと言われた時は、まさかと思ったけど、亜依さんとこんなに仲良くなってるとは思わなかったですよ」
「私もびっくりです、何も言ってくれなかったし」
「言えなかったのだと思いますよ、もしもの事を考えたら」