深夜1時のラブレター


記憶を失ってしまえば、自分が好きだったことや、好きな人のことも忘れてしまうかもしれない。

それを恐れたほまれは、何も言わず1か月間という区切りを付けて、私の前に現れた。

彼が私を忘れてしまう代わりに、私の中に"ほまれ"という人間の記憶を深く植え付けようと考えたのかな。

私はほまれのことを、"人の心の中に入り込むのが上手"だと思っていたけど、彼なりに必死だったんだね。

だから、あんなことまでしたんだね。

その件については、謝っても許してあげないよ。

けど、私もすぐに会いに来なくてごめんね。

これで、おあいこにしようね。



「好きな人の声を聞けば、また目を覚ますのではないか?そう考えて亜依さんをお呼びしたんです」

「……もっと、早く会いに来れば良かったです」

「まだ、間に合いますよ」

「だと良いです」



ねぇ、ほまれ。

次、目を覚ました時は、私のことをもっと信じてね。

例え記憶が無くても、私のことを覚えてなくても、今度は私がほまれをいっぱいいっぱい愛してあげるから。

だから、安心して目を覚ましていいよ。



「先生にお願いがあります」

「何かな?」

「毎週金曜日の深夜1時から、私のラジオをほまれに聴かせてやってください」

「うん、出来る限り約束する」

「ありがとうございます」



先生とはそこで別れて、私は再びほまれの病室に戻った。

もう会えないかもと思っていた彼が、ここに居る。

時間を要してしまったけど、私もここに居る。

これ以上の意味は、何も必要ないよね。



「好きだよ、ほまれ」



相変わらず眠ったままの彼だけど――構わず、私は彼の頬にキスをした。




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