深夜1時のラブレター
何?何?っと覗き込んだパソコンの画面に浮かんでいる文字は、ごく普通に目にする当たり障りのないもので、とてもじゃないがラブレターとは思えない。
首を傾げた私に、杏子は、分かってないなぁと笑い声を零した。
「一見何気ない文章だけど、あいのことをよく見てるというか、理解しているというか、細かいところによく気が付いているんだよね」
「そうかな?」
「そうだよ~、大ファンなんだろうね、あいの」
「だったら嬉しい、かな」
「だね。でも、こういうのって気を付けた方がいいよ、後々ストーカーとかになりそうだから」
えー、ストーカー?それまた極論だな。
そう思う私を他所に、杏子はマウスを右クリックして、そのメールを素早く削除する。
そうしている間にスタッフが杏子を呼びに来て、彼女は、「私も熱烈なファンが付くくらい頑張らなくっちゃ」と笑って、フロアを出て行った。
この仕事を始めて半年経ったくらいから、少しずつファンだと言ってくれる人が現れるようになった。
毎週のようにリクエストをくれたり、プレゼントを送ってくれたり、背中がこしょばくなるくらい褒めてくれたり。
それとは逆に辛辣な言葉で厳しく指摘されたり、嫌がらせのメールを送り付けられたりすることもある。
私の知らない人が私を知っているということは、少なからず恐怖やストレスを感じるものだけど。
「あいちゃーん、そろそろ打ち合わせ始めるよー」
「はーい」
だけどね、もし変な人に執着されたとしても絶対に辞めない。
この仕事は子供の頃からの憧れだったんだ。