深夜1時のラブレター


すっかり泣き止んだ女の子は、嬉しそうな声をあげて持っていたフィギュアを、ほまれに見せている。

……これ、どこかで見たことがあるような。

そう思った時だった。



「沙良!」



男性の大きな声に、女の子の動きがぴたっと止まる。

それから、パパ!と叫んだ彼女は、ほまれと私の間をすり抜けるようにして、男性の元へ走って行った。



「あ、良かった。お父さん見つかったんだ」



微笑ましい父娘の再会を目にして、ほまれはニッコリと笑う。

けれど、私は正直言って心穏やかではいられなかった。沙良ちゃんを抱き上げた男性は、私の姿を認めた瞬間、少し驚いた表情を見せた。

胸がズキンと、痛む。

最悪、不運にもほどがある。

よりによって、りゅうじさんの子供だなんて。



「……柊木?」

「こんにちは」

「偶然だな。沙良を保護してくれたのか?ありがとう」

「いえ、相手をしていたのは、彼の方ですよ」



ほまれの方で手で示すと、りゅうじさんは軽く微笑んで会釈をした。職場では一切見せない、父親の顔。

ブルーのネルシャツにジーンズといったカジュアルな服装で、仕事人間のオーラはゼロ。これがあの、時枝隆司かと、確認したくなるくらい別人だ。



「世話になったね。ありがとう」

「そんな、お礼を言われるほどのことはしてないですよ」



ニッコリと笑いながらりゅうじさんと会話をするほまれは、この人誰?と、目で聞いてくる。

だけど、私はふたりを紹介する余裕なんて少しもなく、ただただ、この場から消え去りたいと願うばかりだった。




< 36 / 109 >

この作品をシェア

pagetop