深夜1時のラブレター



* * *



パーソナリティーの仕事は、番組放送の他にも色々ある。

百聞は一見にしかず。ありとあらゆる情報を声だけで伝えるためには、まず自分が見て触れて感じることが必要。

そのため、話題のものがあれば直接見に行くし、複合施設などで行われるイベントの司会に呼ばれることもある。

それらは楽しいこともあるし、正直いってキツイことも少々。

番組にゲストで迎えるアーティストの取材でライブに招待して貰うなんてのは、まさに楽しいことだけど、ちょっと変わり種で、稲刈り体験に行かされた時は、勘弁してよと思った。



「おはようございます」



けれど、そうした体験の1つ1つが、パーソナリティーとしてのキャパシティーを広げてくれるなら、頑張るしかない。



「おはようございます、今日は冷えますね」

「ねー、風邪ひかないようにしてくださいね」



会社の入り口で守衛さんと挨拶を交わしてから、エレベーターホールに向かう。その途中でポケットに入れてあったスマホが振動し、ラインメールが届いた。



"夜道は危ないから気を付けてね"



ほまれだ。

了解と短く返すと、あんまり遅くなったら駄目だよ、と怒った顔をした犬のスタンプが返ってくる。

それが拗ねた時のほまれとあんまりにも似ていて、笑みを零した時だった。



「あ、あいちゃん、ちょっと」



血相を変えた日野さんが、向こうから走って来た。





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