深夜1時のラブレター
日野さんが親指を立ててニヤっと笑う。
それとほぼ同時にエレベーターのドアが開き、噂をすれば……と、彼が小さく呟いた。心なしか辺りに緊張感が走る。
ネイビーのスーツに身を包んだ長身の男性が、ゆっくりとホールに足を踏み入れ、やがて目が合った。
「おはようございます、時枝ディレクター」
「あぁ」
「今、あがりですか?」
「いや、自宅でシャワーを浴びたら、またすぐに戻って来る」
「少し休まれた方がいいですよ」
「要らぬ心配だな。お前はそれより今日のオンエアのことだけ考えとけ」
「……はい」
相変わらずと言うべきかなんというか、愛想のひとつもない。
1日の大半をここで過ごしていると言っても過言ではない時枝(トキエダ)ディレクターは、疲れた様子を少しもみせずに、颯爽とエントランスを抜けて行く。
素っ気ない口調から想像できる通り厳しくて、冷徹で、妥協という言葉を知らない鬼上司なのだ。
いつもムスっとしていて、たまーにしか笑わない。
――――けど。
ムカつくくらい、この上司の人気は高い。