猫と太陽。

エレベーターで5階まで上って、ポケットから鍵を取り出す。
鍵を差し込もうとしたそのとき、くるりと勝手に鍵穴が回り、ガチャリと音と共にドアが開いた。

「おかえりなさい!」

満面の笑顔が出迎えてくれる。
帰る連絡もインターホンを押してもいないのに、どうやら僕が帰ってくるのを察知したらしい。

「ペットか何かか君は」

「おかえりなさい!」

「どうして僕だと分かったんだ?」

「おかえりなさい!!」


「…ちゃんとドアスコープで外に誰がいるか確認してから開けた方がいい。万が一僕じゃない可能性も…「おかえりなさい!!」


「………“ただいま”」

そう返事をすると、やっと彼女は満足したようにニコリと笑みを浮かべた。

“おはよう”や“いただきます”、“おやすみなさい”
、それと“ただいま”と“おかえり”。

彼女はその決まり文句にやたらとこだわる。

それを僕がきちんと言うまで、彼女は僕と言葉のキャッチボールをしてくれない。



「だいじょーぶですよ。分かるんです。高野さんの気配とか足音って」

さっきの僕の言葉に返事をしながら彼女はリビングへと戻っていく。

だから君は犬か猫か、と心の中で突っ込みつつ、僕も靴を脱いで家に上がった。


誰かと暮らすというのは何年ぶりだろうか。

帰宅すると既についている部屋の灯りや、おかえり、ただいま、なんていう挨拶にも、奇妙な感覚を覚える。

それは、一緒に暮らしているのが1週間前まで全くの他人だった人間だから…なのかもしれない。

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