白鷺の剣~ハクロノツルギ~
白鷺の脇差は、手に取った直後は氷のように冷たいのに、次第に熱を帯びたように感じた。

それと共に私自身の血が騒ぎ出すような感覚。

こんなのは初めてだ。

まるで……あの脇差は何かを訴えているようだった。

……もう一度見たい。

あの脇差をもう一度手に取りたい。

明日になったらお祖父ちゃんに頼んで見せてもらえばいい。

それなのに。

何故なんだろう。

我慢出来ない。

今すぐもう一度見たい、触れたい。

でないと、狂いそうだ。

ジリジリと胸が焦げるようなこの感覚。

今までに何度か味わったことがあるこの感覚の正体を私は知っていた。

でも。

人に対して抱いた事はあっても、物に対してこんな気持ちを覚えた事などなかった。

ダメだ、今すぐ……。

私はゆっくりと起き上がるとお祖父ちゃんの部屋を目指して歩き出した。

鍵の場所は分かってる。

引き戸を開けてすぐ左の壁に掛けてあるのだ。

私はそっとお祖父ちゃんの部屋を開けて鍵を持ち出すと、日本刀部屋の前に立った。

鍵を開ける際に手が震えた。

……早く……早く、会いたい。

熱に浮かされたような自分に戸惑う気持ちなんかまるでなかった。
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