白鷺の剣~ハクロノツルギ~
……全然何処か分からない。

すぐ近くに川が見える。

水の色からして深いように感じる。

辺りをもっとよく見ようとして、私は少しだけ眼を細めた。

川の両岸には隙間なく建物が建っていて、多分色んな店が並んでいるのだと思う。

街中らしく行商人が行き交っていて、すぐ近くの道には露店商も多数見受けられた。

……賑わってる。

なんというか、商人が多くて活気があるけど、ここが何処なのかまるで解らない。

けれど。

怯んでなんかいられない。

止まってなんかいられないのだ。

岡田以蔵を探さなきゃならない。

私は下を見て高さを確認すると、枝を持つ手に力を込めてから、松の木を降りはじめた。

◇◇◇◇◇◇◇◇

多分だけど二時間ぐらい後……。

「じゃあ、今から働いてもらえるかい?!あんた、異人じゃない割にはやけに髪が橙色だねえ。まあ遊女上がりでもないみたいだけど……酒の席の接客は出来るのかい」

私はニッコリと微笑んで、目の前の太った女性を見つめた。

「播磨の方で一年間、御食事処で働いてました。料理も得意だし、接客も大好きです」

嘘だけど。

一日で白鷺に辞めさせられたけど。

「そうかい!ここは大坂だ。色んなところから様々な人間がやって来る街だよ。うちは料理屋だからね、粗相のないように頼むよ。大きな声じゃ言えないけど……気が荒い浪士が最近多いんだ」
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