白鷺の剣~ハクロノツルギ~
「女将さん。あのお座敷のお侍さん達、熱燗ですよね。私がお持ちします」

「ああ、頼んだよ」

私はお盆に熱燗を二本乗せると、次第に激しく脈打ち始める胸をなんとか押さえながら座敷に足を向けた。

何かを情報を得られるといいのだけど……。

私は出来るだけさりげなく、閉じられた障子に身を寄せた。

「下横目(しもよこめ)の井上がまだしつこく嗅ぎ回ってる」

……聞こえる。

「武市さんからは、早々と決行するようにとの事だが……岡田と久松はどうした」

武市……岡田……。

つくづく歴史に疎い自分を呪ったけど、私は当たりクジをひいたような気分だった。

ビンゴな気がする。

彼らは土佐藩士で、同じ土佐出身の岡田以蔵と知り合いなんじゃないだろうか。

武市という名も出たし。

「岡田ならほどなくして来るはずだ。久松とは昨日会ったが東洋殿の件を逆手に取り、井上を呼び出す算段を立てている」

なんの事だかイマイチ分からないけど…武市さんの指示で、井上とかいう人を呼び出そうとしてるって事だよね。

私は眉を寄せながらジッと障子の向こうの会話に集中した。

その時、中から勢いよく障子を開けられ、私は驚いてガチャリとお銚子を鳴らした。

「す、すみません」

二人のうち、障子を開けた男性にグッと強い眼差しで見下ろされ、私は思わず頭を下げた。

どうしよう、怪しいと思われたかも。

「……女、顔を上げろ」
< 103 / 197 >

この作品をシェア

pagetop