白鷺の剣~ハクロノツルギ~
ビクッとし、更に上がる心拍と手の汗。

落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃ!

何も知らないただの店の者だと思われるようにするには。

私はゆっくりと顔をあげながらフワリと笑った。

「申し訳ありません。実はお酒のご注文を何処にお運びしていいのやら迷ってしまいまして……女将さんに聞き返して怒られるのが嫌で躊躇してしまいました。ごめんなさい」

私がそう言いながら男性を見つめると、彼は僅かに鋭い瞳を細めた。

口を開く代わりに、舐めるように私を見回す。

ダメだ、怪しまれてるかも。

「……変わった髪色だな。髪も結ってないとは……何処の出だ?」

私はゴクリと鳴りそうになる喉を必死でこらえた。

未来から来ましたなんて、とてもじゃないけど言えない。

「出身は播磨で、先月まで城で仕えておりました。父が姫路藩主のメチャクチャ遠縁で、そのコネ……じゃないつてで」

「播磨の城?姫路の?」

「はい」

もう、思いっきり嘘だけど。

「城での仕事は?」

う、嘘が嘘を呼ぶとは、正にこういう事だ。

もう、どうにでもなれ!

私は半分ヤケになりながら、更にニコニコと笑った。

「城ではその、催し物の企画及び機材……じゃなかった、準備物手配を統括しておりました」

なんだよ、それ。
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