白鷺の剣~ハクロノツルギ~
自分でも呆れたけど、二年間イベント会社でバイトした経験から、私は堂々と嘘をついた。

もう話題を変えなきゃ。

「あの、お酒は二本でよろしいでしょうか」

私が微笑みながらそう言うと、男性はニヤリと笑った。

「変わった女だが、さほど怪しくもないようだ。もう行っていいぞ」

「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」

私は机にお酒を置くと、一杯だけ二人に酒をついで座敷を後にした。

はあー、緊張したーっ。

お盆を抱えるようにしてその場を離れると、私は思わず大きく息をついた。

何とか上手くごまかせて良かった。

この分じゃ今夜中に岡田以蔵と会えるかもしれない。

もし会えたら潜伏場所を突き止めて刀を返してもらおう。

私は強く決心した。

背中に流れる冷や汗を感じながら。

◇◇◇◇◇◇◇

結局、男性達が座敷を後にするまで岡田以蔵は現れなかった。

確かにあの座敷の男性達二人のうちの一人が、『以蔵ならほどなくして来る』っていってたのになー。

聞き間違いだったのかな。

私がそう思いながら空いた皿を片付けていると、女将さんに声をかけられた。

「柚菜ちゃん、二階の座敷に酒と肴を運んでおくれ。南側のツツジの間だよ。間違えないでおくれ」

「はい、女将さん」
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