白鷺の剣~ハクロノツルギ~
一階の端と端に二ヶ所の階段がある。

「ツツジの間はこっちの階段のが近いよ」

「はい」

私は女将さんから受け取ったお盆を手に、急な階段を慎重に上がった。

一階はやたらと明るいけど、二階はそんなには明るくなく、廊下には部屋の間隔毎に行灯が置かれていた。

部屋の名前が入り口の手前の柱に彫られていて、私はツツジの間を見付けると外から声をかけた。

「ツツジの間のお客様、お酒をお持ちしました」

「入れ」

すぐに返事が返ってきて、私は少し安心すると襖を開けた。

「失礼します」

行灯のそばに一人の男性が胡座をかいていて、私はその男性の顔を見て息を飲んだ。

男性が少し笑った。

「さっきはあまり話せなかったが」

「……はい」

彼はあの男の人だった。

武市さんや以蔵さんの話をしていた二人のうちの、障子を勢いよく開けたあの男性だ。

六畳ほどの部屋に、小さな机と布団。

なに、この人此処に泊まるの?

てっきり帰ったと思ったのに。

私が驚いて見ていると、

「座って酒を注げ」

そう言って私の手からお盆を取り上げた。

手を引かれると男性のすぐそばに座らされて、私は取りあえずお銚子に手を伸ばした。
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