白鷺の剣~ハクロノツルギ~
そこに顔を埋められて、私は寒気がした。

「やだ、やだ、やめて」

どうしよう、どうしようっ!!

男性の力が強くてどうにも出来ない。

「柚菜、おとなしくしろ。すぐによくしてやるから……」

嫌だ、こんなの嫌っ!

「お願い、やめて!」

やめてくれそうにないけど、私はそう言うしかなくて、必至で声を張り上げた。

やだ、誰か、助けてっ!!

その時、パァン!と音を立てて襖が勢いよく開いた。

「誰だっ!?」

男性が気色ばみ、一瞬の隙をついて私は男性から這い出るようにして距離を取った。

「嫌がる女をどうにかするのが趣味とは……」

フッと笑ったその月のような目差しに、私は確かに見覚えがあった。

ああ、会えたんだ。

私の目の前の人は……岡田以蔵、正にその人だった。

「以蔵さん!」

以蔵さんは私を見つめて一瞬唇を引き結んだが、直ぐに男性に視線を止めて静かな声で言った。

「これは俺の馴染みの女だ。連れて帰る」

「以蔵の知り合いだったのか?!」

男性が信じられないと言った風に私と以蔵さんを交互に見つめた。

「ああ。播磨で知り合った」

男性がチッと舌打ちしたがそれを無視し、以蔵さんは部屋へ入ると私の腕を掴んで引っ張り上げた。
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