白鷺の剣~ハクロノツルギ~
第四幕

白鷺の元へ

◇◇◇◇◇◇◇

どれくらい眠っていたのかは分からないけど、私が目覚めると以蔵さんはいなかった。

夜が明けているみたいで、チュンチュンとスズメが騒がしかった。

「起きたかい」

店のご主人が私に優しく声をかけた。

「あの、私と一緒にいたお侍さんは」

「あの浪人なら、あんたを一晩泊めてやってくれと言ってね。金を置いて出ていったよ」

……やっぱり……以蔵さんは行ってしまったのだ。

俯く私に、店のご主人が続けた。

「あんた、播磨へ帰らなきゃならないそうだね。もうすぐ俺の知り合いが、姫路の着物屋に組紐を卸しに行くんだ。積み荷と一緒に乗せてもらえるように手紙を書いてやるから、持っていきな」

私は弾かれたように顔をあげるとご主人を見つめた。

「いいんですか?」

「礼なら昨夜の浪人に言いな」

ご主人が優しく微笑んだ。

「……ありがとうございます」

「刀、忘れるんじゃないよ」

その声に慌てて振り返ると、枕元に白鷺一翔が置いてあった。

途端に以蔵さんの姿が脳裏に蘇る。

ああ、本当にもうお別れなんだ。

彼は自分の道へと突き進んでいってしまったのだ。

私は白鷺一翔を手に取ると、そっと鞘を撫でて眼を閉じた。
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