白鷺の剣~ハクロノツルギ~
城内の『お菊井戸』は有名で、絶対に外せない観光スポットでもある。

私が息を飲んで固まっていると、正太さんは大きく笑って続けた。

「まあただの怪談話だけどよ。それくらい播磨の地で白鷺流の刀は、昔から有名だということだな」

「そうですか……」

私は曖昧に笑って白鷺一翔をギュッと握った。

「じゃあな!」 

「お世話になりました」

正太さんに白鷺の家に続く坂道の手前まで送ってもらい、丁寧にお礼を言うと手を振って彼と別れた。

それから、懐かしい坂道を見上げる。

……白鷺は……白鷺はいるだろうか。

もしもあの、爆乳美女といたら……泣くかも。

それでも、一目会いたい。

白鷺の顔が見たい。

私は白鷺一翔を胸に抱くと懐かしい砂利道を歩き始めた。

白鷺の家に近づくにつれ、次第に胸が高鳴る。

最後のカーブを曲がり終えた時、懐かしい姿が眼に飛び込み、私は思わず立ち止まった。

……白鷺だった。

白鷺は私に気づくことなく、庭の前の小さな川に手拭いを浸し、絞って身体を拭いていた。

腰まで着物を脱ぎ、夕陽を身体に浴びて白鷺は立っている。

ああ、白鷺。

この僅かな距離が我慢できない。

胸が高鳴り、涙が出そうになる。

私は思いきり彼を呼んだ。

「白鷺っ!」

弾かれたように白鷺がこちらを見た。
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