白鷺の剣~ハクロノツルギ~
◇◇◇◇◇◇

その夜。

白鷺は何も言わなかったから、私もその事について何も言わなかった。

ただ私達は並んで、他愛もない話をして夕食を食べた。

でも私は確信していた。

雅さんは、今夜必ず来る。

生き霊となって、私に会いに。

きっと彼女は私の想いに気付いた筈だ。

部屋に入ろうとする二人の後ろから、白鷺を呼んだ私の声で。

あの夜、薄暗い部屋から私めがけて飛んできた懐剣と、それが頬をかすめた冷たい感覚を思い出して唇を噛んだ。

あれよりひどい目に遭わされるかもしれない。

私が脇差『柚姫』を抱き締めたその時、低く静かな白鷺の声がした。

「雅は……俺がひどい目に遭わせてしまった男の娘なんだ」

身体がヒヤリとして、私は白鷺を見つめた。

白鷺は一瞬私を見たけど、直ぐに床に視線を落とした。

「俺は償わなきゃならない」

……だから、白鷺は雅さんの望みなら叶えようとするんだ。

自分に対する彼女の好意も、白鷺は撥ね付けるわけにはいかないと思ってるんだ。

私は白鷺を見つめた。

オレンジ色の炎が白鷺の精悍な頬を照らしいて、更に凛々しく見える。

私は少し息をついてから、ゆっくりと口を開いた。
< 173 / 197 >

この作品をシェア

pagetop