白鷺の剣~ハクロノツルギ~
けれど直ぐに唇を引き上げて笑った。

「へぇ……ただのバカっぽい女の子だと思ってたけど……意外と鋭いのね。褒めてあげるわ。そう。
いかにも私は藤堂宗光の娘、藤堂雅よ」

やっぱり……!

私が息を飲む中、雅さんは静かな声で話し始めた。

「あの日……日暮れ前に帰った私は、朝と様子が全く変わってしまった家の状態に愕然としたわ。何があったのか両親に訊いても答えてはくれず、父と母が苦労してお金の工面をしてやっとの思いで開いた剣術道場は取り潰しになってしまった。直ぐに道場は人手に渡り、私たち一家は播磨を追われた。どんな気分か分かるかしら?!」

雅さんは私を、大きな眼で射るように見つめた。

「備前へ移った父はそこで何とか道場を再建したけど、私は播磨の国で何があったかどうしても知りたかった。そんな時、昔弟子だった人が父に会いに来たの。帰ろうとした彼を捕まえて、あの日起こった真実をやっと知ることが出来た」

雅さんはそこで言葉を切ると深いため息を漏らして白鷺を見つめた。

「せっかく道場を再建したのに、父は苦労が祟ったのか翌年死んだわ」


眼の端で、白鷺の苦しげな瞳が見える。

「私は母の元を離れてこっそり播磨に戻ったわ。許せなかったの。無責任な刀匠、西山白鷺をね」

雅さんは、大きな瞳を私に向けてグッと眉を寄せた。

「だってそうでしょう?!業物を生み出すような天才的な刀匠が、誰彼構わず刀を売るから私の家族は苦しむことになったのよ!刀は人殺しの道具なのよ!?人を選んで売るべきよ!!」

私は何も言えずにただ雅さんを見つめた。

確かに、白鷺一翔を手にした弥一さんは罪深い行いをした。

一方、雅さん一家は非のない被害者だ。

けれど。
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