白鷺の剣~ハクロノツルギ~
「白鷺は苦しんでる。分からないの?!」

雅さんは私を睨んだ。

「私だって苦しんでる!!」

彼女の大声のせいか、白鷺一翔が小刻みに震えた。

「一言怨みごとを言ってやろうと思った相手を好きになってしまったのよ?!家族の夢を潰し、父を死なせた憎い刀工を愛してしまった!この辛さがあなたに分かる?!」

雅さんの苦しみに満ちた眼差しに、私は胸を突かれてただ立ち尽くした。

「会いに行った白鷺を初めて見て、凄く驚いたわ。こんなに若い青年だったなんて。
見目麗しい姿。
男らしく潔い心。
何度か会ううちに、たちまち心を奪われた。
白鷺の全てが私の心を捕らえて離さないの。
なのに、白鷺は私を愛してくれない。いつも憐れみの対象としてみるだけ」

雅さんは自分を抱き締めるように両腕を交差させ、ギュッと眉を寄せた。

「私たちを不幸に追いやった相手なのに、好きでたまらない!こんな私は親不孝なひどい娘よ!なのに白鷺を愛してやまないの。憎い相手の筈なのに、白鷺と一緒にいたい。でもそれは許されない。母に顔向けできないもの。
……そのうち、心の隅で母の死を夢見る自分に気付いた。
母がいなくなれば、私と白鷺の関係を反対する人間はいなくなるって。自分を鬼だと思わない日はないわ。
もう気が狂いそうよっ!」

雅さんの悲痛な声が部屋中に響いて、私は震えそうになる身体を抑えるために必死で脇差を握り締めて口を開いた。

「あなたのご家族は確かにお気の毒だと思うわ。でもそれをダシに白鷺に付け込むなんて、とてもじゃないけど彼を愛しているようには見えない!」

瞬間、雅さんの瞳がギラッと光った。

「……白鷺には償う義務があるでしょう?私を愛して償えばいいのよ。なのに、笑いかけてもくれない。手を繋いでもくれない」
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