白鷺の剣~ハクロノツルギ~
それからそばに脱ぎ捨てていた着物を手に取ると、スッと袖を通した。

「……早いな」

「ああ、今日はコイツと来たから早めに家を出たんだ。邪魔して悪いな」

宗太郎の言葉に頷いてから、白鷺は涼やかな眼を私に向けたけど、私は素早く彼から視線をそらした。

「もうっ、あと少しだったのに」

白鷺に抱き締められていた女性が、彼から受け取ったお金を胸元にしまいながら不満そうにそう言うと、

「また今度」

「待ってるわ」

白鷺の低い声がして、女性は私たちをすり抜けるように外へと出ていった。

……濡れ場を見てしまった。

映画でもドラマでも多少の濡れ場は含まれているし免疫はあるはずだけど、はやり画面越しでないとなると動揺する。

余談だが羨ましい事に、さっきの女性の胸はやたらとでかかった。

しかも白鷺の逞しく、腰に下がる程引き締まった身体が私をドキドキさせた。

いつの間にか引いていった血液が戻ってきて、顔中に集まったように頬が熱い。

変態か、私は。

「俺は先に始めてるからな」

宗太郎は白鷺にそう言うと、私にじゃあなと言って再び外へと消えた。

当然のごとく、部屋には私と白鷺の二人きり。

「何しに来たんです?」

白鷺のウンザリした顔にがっかりしながら、私はゴクリと唾を飲んで大きく息を吸い込んだ。

簡単に引き下がれない事情が、私にはある。
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