白鷺の剣~ハクロノツルギ~
私は土間を進み、部屋のすぐ側まで近寄ると、そこで帯をしめている白鷺を見上げた。

「西山さん、お願いします。私に剣を一刀作ってください。昨日も言いましたが、私に出来ることは何でもします。料理でも洗濯でも掃除でも。それが間に合っているなら、私どこかで働いてお金を作ってきます。だからお願いします」

私が言い終わるのを待ってから、白鷺は口を開いた。

「料理も洗濯も掃除もしていただかなくて結構。それに私の作る刀は貴方ごときが一生身を粉にして働いたところで買えるような金額ではありません」

取り付く島もないというのはまさにこういう状況を言うのだろう。

もう何を言っても無駄なのだ。

そう思うと後悔した。

「……あの時、あなたの作った脇差を見なきゃよかった。あの脇差を手に取らなければよかった。あの地肌に惚れなきゃよかった。
あなたの刀を好きにならなかったら、ミカヅチ様に過去の日本に飛ばされる事もなかったのに」

ポトリと、土間の堅い土の上に涙が落ちる。

すぐに泣く女だと思われたくなかった。

私は白鷺に背を向けると再び口を開いた。

「……西山さん、あなたの刀が大変高価なのは分かりました。では、私が大金を……あなたが剣を作ってもいいと思うくらい稼いできたら、あなたは私に剣を作って下さいますか?」

白鷺が静かに言った。

「……いいでしょう。その前に……いくつか質問があります」

私はゆっくりと振り返ると彼を見つめた。

帯を締め終えた白鷺は畳の床に立て膝で座り、僅かに目を細めて私を見た。
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