白鷺の剣~ハクロノツルギ~
卵がある。

未来の飯を食わせろと宗太郎は言ったけど、ここにある食材では無理だ。

私は小さく息をついて卵を見つめた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇



……いい匂い……。

……鍋……?

鍋なんていつぶりだろう?

確か拓也が寒いから鍋にしてってラインしてきて……。

時期的な事を考えてみると、あの時からもう拓也の気持ちは私から離れていたんだ。

嫌だ、行かないで。

側にいてよ。離さないで。

夢だと言って。

その時、肩を揺すられた。

「……っ!」

「大丈夫で、」

「宗太郎っ!」

どうやら夢を見ていたようだ。

うす暗い室内には、不安定な橙色の灯りが揺らめいて、私は怖くて心細くて目の前の腕にしがみ付いた。

「宗太郎、怖い夢見ちゃった」

言いながら彼の腕にしがみつき、私は宗太郎を見上げた。  

「あっ!……きゃあっ!」

宗太郎じゃないじゃん!
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