白鷺の剣~ハクロノツルギ~
驚く事に、目の前の人物は白鷺だった。

「ご、ごめんなさい!宗太郎と間違えてっ!」

慌てて放り投げるように白鷺の腕を離すと、彼は呆れたように私を見て溜め息をついた。

「宗太郎はあれからすぐに宍粟へと出掛けました。十日は帰らないでしょう」

「十日も?!」

「千種鋼の買い付けに。あちらには馴染みの職人がいまして」

「西山さんは、千種鋼を刀の材料に?!戦国時代だったかな?昔は南蛮鉄を用いる刀工が多かったとききましたが、千種鋼はどうですか?!私が持っていた本によると、硬すぎて芯鉄を入れないと……あっ!」

慌てて両手で口を覆ったのは、白鷺がポカンとした顔で私を見ていたから。

「あの、ごめんなさい……」

そんな私を見て、白鷺はクスリと笑った。

「私の刀は……使う材料にもよりますが芯鉄はいれません。そういった面では昔の日本刀の作り方に近いのかもしれません。今の時代の刀は材料の質の問題もあり、芯鉄を包み込むようにするのが主流です。残念なことに刃文こそ違えど、あ」

今度は白鷺が我に返り顔を赤らめた。

それから僅かに咳払いをし、

「とにかく、宗太郎から伝言で……私の家にでも泊めてもらえと」

……白鷺の家に?

私はまじまじと白鷺を見つめた。

「でも……ご迷惑なんじゃ」

「迷惑です」

なんだよっ、その返しはっ!

はっきり拒絶された事に傷付き、思わず俯く。

「……じゃあ、私、ここにいます」

だってこれ以上嫌われて、剣を作ってもらえないなんて事になると……ゾッとする。
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