白鷺の剣~ハクロノツルギ~
「ありがとうございます!」

「今日はもうすぐ看板だからね、上がっていいよ」

「では、お皿を洗っておきますね」

私がそう言って女将さんに頭を下げた時だった。

入り口の暖簾をくぐり、一人の男性が店に入ってきた。

「いらっしゃい!」

私は思いきり愛想よく微笑んで男性を見つめた。

直後に硬直。

例えて言うなら、まるで冷凍の肉みたいにな!

だってその男性は、眉間に皺を寄せた白鷺だったんだもの。

女将さんには目もくれず、彼は私を見据えてムッとしている。

袖から見えない両腕は、着物のなかで組まれているらしい。

「こんばんはー……」

焦って言ってみたものの、当然のごとく無視される始末。

なんか、ヤバい雲行きなんじゃ……。

「もうすぐ看板ですけど、お酒だけなら」

女将さんがにっこり微笑んで白鷺を見たが、

「帰るぞ」

白鷺は短くそう言うと、私の腕を掴んで店の外へと出た。

「ちょ、待って、西山さん、あの、」

白鷺は私の声など聞こえないといったように歩き続けた。

「西山さん、待ってください。私、さっきのお店で雇ってもらえたんです。しかも住み込で」
< 48 / 197 >

この作品をシェア

pagetop