白鷺の剣~ハクロノツルギ~
日本刀って、有名な刀工のものとなると、かなり価値が上がるのよね。

さっきいった『折り返し鍛錬』という作業にしても、ただ鋼を折り返して叩く回数を増やせばいいって訳じゃない。

刀工の研ぎ澄まされた感覚と、優秀な弟子との呼吸で、粘りのあるいい日本刀が出来上がるのだ。

私はウットリしながらお祖父ちゃんの手の中の日本刀を見つめた。

「どうしたん、この太刀」

かなり反りが高い。

太刀とは、馬上で使う事を目的とした長めの刀で、刃を下にして腰に吊るす。

お祖父ちゃんは満面の笑みで私を見た。

「これはな、お祖父ちゃんの従兄弟の家の縁の下から出てきたんや。多分、鎌倉時代のもんや。おじいちゃんのみたところ、 最上大業物とまではいかんとしても、大業物か良業物ゆうとこや。確実に国宝級の一振りやな」

お祖父ちゃんは『抜刀術』別名『居合術』の先生だ。

抜刀術とは、帯刀した日本刀を鞘に納めた状態から始める武術なの。

素早く抜き放った日本刀で相手を仕留めるんだけど、お祖父ちゃんの抜刀術はそれはそれは洗礼されていて美しい。そして速い。

抜刀術の達人で愛刀家でもあるお祖父ちゃんだからこそ、この太刀が業物だと分かったのかもしれない。

大業物(おおわざもの)、良業物(よきわざもの)とは、山田浅右衛門が試し切りを行い、切れ味ごとに分類した言わば日本刀のランク付けだ。

たしか、浅右衛門が発表した懐宝剣尺によると、少なくとも7つに分類されていたように思う。

私はあまりの驚きに息を飲んだ。

「業物なん?!」

「浅右衛門の眼に留まっとったら、確実に有名になっとった一刀やな」
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