白鷺の剣~ハクロノツルギ~
勢いよく着物の前を開けるとそのまま脱ぎ捨てて、部屋のすみに忘れていた上下のスウェットを拾い上げた。

「柚菜、待て」

「待つ理由がない」

なんとまあ、可愛くないんだろうと自分でも思った。

じっと耐えてしおらしく謝っときゃよかったのかもしれない。

そしたら、剣をつくってもらえたのかも。

後悔したってもう遅いけど。

その時、荒々しく駆け寄る音が聞こえて、私はすごい勢いで肩を掴まれた。

「……っ!!」

無理矢理振り向かされると、白鷺の身体が目の前にあり、壁まで押された。

ガツンと後頭部と背中に衝撃が走る。

下着姿なのを後悔した。

首に白鷺の大きな手がかかり、これ以上何か言うと絞め殺されるんじゃないかと思った。

「出戻りだと言ったな」

鼓動が跳ねたのは離婚の話のせいか、白鷺の端正な顔と逞しい身体がすぐそこにあるせいなのかは分からなかった。

息を飲む私を見て、白鷺は精悍な頬を傾けて僅かに眼を細めると、ニヤリと笑った。

「出戻った理由が……何となく分かる」

ガシャンと、投げられると痛いものをぶつけられた気がした。

パシッと乾いた音がして、白鷺の左頬が見えた。

自分の右手はジンと痺れて熱い。

「白鷺なんか大嫌い」

ツッと涙が頬を伝い、私は拓也とのあの夜を思い返した。
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