白鷺の剣~ハクロノツルギ~
「正直に言うけど……俺、好きな人がいるんだ。会社の女の子で……。彼女は凄くか弱い子で……俺がいないとダメなんだ。
俺達は子供もいないし、柚菜はまだ23歳で俺は26歳。いまならまだやり直せるだろ?頼むよ。慰謝料ならちゃんと払うから」

バカにしないでよ。

「なにそれ?!彼女は俺がいないとダメ?!
あなたは私と結婚したのよ?!」

ただ、酷いと思った。

私はダイニングテーブルのそばに突っ立ったまま、両の拳を握り締めた。

「私達誓ったよね、神様の前で。病めるときも健やかなる時も」

「ごめん。でも離婚してくれ」

私の言葉を遮り、拓也は深々と頭を下げた。

その姿を見た時、ワナワナと身体が震えだした。

悔しくて悔しくて、私の身体中で何かが駆け巡って暴れ出てきそうだった。

許せない!!

けど、嫌だとか絶対に離婚はしないとか、そんな事は言いたくなかったし、泣いてすがるのも私には出来なかった。

だって、愛してくれない人といたって虚しいだけだもの。

「……分かった。でも絶対に慰謝料はちゃんと貰うから」

悲しみよりも怒りの方が大きかった。

三ヶ月後には、私と拓也はあっさりと離婚が成立していて、お互いの荷物も運び出せていた。

離婚は多くのエネルギーを使い、凄く大変だというのを聞いたことがあるけど、私達には当てはまらなかった。

きっとそれは、私と拓也の間には何もなかったからだと思う。
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