白鷺の剣~ハクロノツルギ~
力が入らない。

脱力感が半端ない。

「……白鷺」

「……ん?」

力なく呼ぶと、意外にも白鷺は優しく返事をした。

白鷺は私に寄せた頬を僅かに離し、至近距離からこちらを見つめている。

「白鷺って、バカなんじゃないの?」

涙声でそう言うと、私は白鷺に身を預けた。

私もバカなのかも知れない。

ことごとく私の前途を阻むこの男に抱きつくなんて。

でも、でも。

分かり合いたいと思ったからかも知れない。

かたい胸に頬を寄せて寄りかかれば、少しは彼を知れるかもって。

「白鷺……私、働かなきゃお金がないんだよ?白鷺に払うお金がないの。私に剣を作る気はないの?だったらもう一度きっぱりと断ってよ……。そしたら私、本当にもう白鷺に作ってもらうのを諦めるから……」

「……俺は……バカかも知れない」

白鷺の声は、どこか悲しそうで静かだった。

目一杯息を吸い込むと白鷺の香りがして、私はゆっくりと眼を閉じた。

疲れてしまって、ただ眠りたかった。
< 55 / 197 >

この作品をシェア

pagetop