白鷺の剣~ハクロノツルギ~
「店に戻ろうとしてもムダだ。店の奴らが怖がるからやめておけ」

射抜くように白鷺が私を見ていた。

なんで怖がるの?意味が分からない。

と思ったのは多分3秒ぐらいで、

「柚菜は川に落ちて死んだと伝えた」

そう言った途端、白鷺は急にそっぽを向いた。

……さっきはこちらを見据えていたくせに、なんだその白々しい眼のそらし方は。

川に落ちてって……やだよ、そんな死に方。

私は両目を閉じて天井を仰いだ。

悪党としか言いようがない。

「……あっそ」

もう、怒る気力も起きない。

私は再び横になると丸くなって布団をかぶった。

途端にひとつの疑問がムクムクと沸き上がる。

白鷺は……私が嫌いなんだろうか。

だから剣も作ってくれないし、働かせてもくれないのか。

聞くだけ野暮だ。

嫌いに決まってる!

わたしも白鷺なんか嫌いだし。

その時である。

急に白鷺が立ち上がり、入り口を見つめた。

昼間は開けっぱなしの戸を注意深い眼差しで凝視している。

「どなたですか」

白鷺のその声で、初めて人が来た事に気付き、私は身を起こした。

……誰?
< 57 / 197 >

この作品をシェア

pagetop