白鷺の剣~ハクロノツルギ~
そう言うと、お祖父ちゃんは太刀の刃を下向きにし、表側の茎(なかご)を私に見せた。

茎とは柄の部分で、ここは製作者である刀工が自分の名を刻む場所だ。

「……誰って書いてんの?錆びてて見えにくい……」

「白鷺流西山て書いてあるんや」

「……ハクロ?」

お祖父ちゃんがニヤリとした。

「そう。白鷺城の、ハクロや。この意味が分かるか?」

それって……。

「業物をつくれる刀工がこの地にいたってこと?!」

「そうや。腕のええ刀匠がおったんは『五ヶ伝』だけやない。この播磨の地にも業物をつくれる刀工が確かに存在しとったんや」

『五ヶ伝』とは 大和国、備前国、山城国、相模国、美濃国を指すんだけど、この五つの国の刀工が大変優れていて、刀の世界ではスゴく有名だ。「実はお祖父ちゃんはな、白鷺の日本刀をもう一刀持っとるんや」

そう言いながら太刀をそっと置くと、お祖父ちゃんは窓際の棚をそっとあけて、紺色の布にくるまれた、太刀よりも短い日本刀を取り出した。

「脇差?」

お祖父ちゃんが頷きながら布の結び目を解いた。

「手にとってみ」

「ええの?!」

私はお祖父ちゃんから脇差を受けとるとそっと布を開いた。

それから眼の高さに上げ、蛍光灯の光を確認しながら斜めに傾けて地肌を凝視する。

これは……。

「こんな地肌、見たことない……」

「そうやろ。鳥の羽根みたいな模様やろ?
白鷺独特の地肌や。ということは白鷺は『五ヶ伝』の中の、どの流派も継いでない可能性が高い。少なくても鎌倉時代には流派を確立してた事になる」
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